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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)10042号 判決 1974年6月24日

亡庄山三郎、藤井栄市こと岩本吉時訴訟承継人 岩本八重子

原告 岩本義通

<ほか三名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 奥中克治

被告 長野時保

被告 長野時彦

右被告ら訴訟代理人弁護士 今堀孝人

主文

本件各手形判決を取消す。

原告らの本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告ら

本件各手形判決主文同旨の判決および仮執行宣言。

二、被告ら

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二、当事者双方の主張

一、原告ら(請求原因)

(一)  原告らは本件各手形判決末尾の約束手形目録のとおり記載がある約束手形八通を所持している。

(二)  被告時保は、右手形のうち六通(昭和四八年(ワ)第一〇〇四二号(A事件)第一〇〇四四号(C事件)の手形判決末尾約束手形目録記載の約束手形六通)を振出した。

(三)  被告時彦は右(一)記載の手形のうち二通(昭和四八年(ワ)第一〇〇四三号(B事件)の手形判決末尾約束手形目録記載の約束手形二通)を振出した。

(四)  原告らの被相続人亡岩本吉時は満期に支払のため支払場所で本件手形のうち六通(A事件の手形(1)(2)、B事件の手形(2)、C事件の手形(2)(3)(4))を呈示した。

(五)  三和銀行は満期の日に支払場所(手形交換所)で支払担当者に支払のため本件手形のうち二通(B事件の手形(1)、C事件の手形(1))を呈示した。

(六)  前記亡岩本吉時は右銀行に対し、拒絶証書作成義務を免除して右手形二通を裏書したが不渡により、右B事件の手形(1)は昭和四七年九月二三日に、右C事件の手形(1)は同月二〇日にそれぞれ同銀行に手形金を支払い右手形を受戻した。

(七)  岩本吉時は昭和四八年一〇月三〇日に死亡し、原告人らは岩本吉時を相続しその権利義務一切を承継した。

八 よって、原告らは被告らに対し次の金員の支払を求める。

1、被告時保に対する請求

(1) 前記(二)記載の手形六通の手形金。

(2) 右手形のうちA事件の手形(1)(2)、C事件の手形(2)(3)(4)の手形金に対する満期の翌日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金。

(3) C事件の手形(1)の手形金に対する受戻の翌日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金。

2、被告時彦に対する請求

(1) 前記(三)記載の手形二通の手形金。

(2) 右手形のうちB事件の手形(2)の満期の翌日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金。

(3) 同事件手形(1)の手形金に対する受戻の翌日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金。

二、被告ら(答弁・抗弁)

(一)  答弁

原告ら主張の請求原因事実は全部認める。

(二)  抗弁

1、本件手形債務は亡岩本吉時被告時保および同被告の妻長野りよの合意により昭和四七年一〇月二三日次の準消費貸借により債務者及び債務の要素を変更して更改したので消滅した。

すなわち、被告が亡吉時に対し負担していた金二五〇万円の本件手形債務を含めた既存債務を目的として亡吉時が右長野りよを債務者として同女に金銭を貸付ける契約をしその債務には同女所有の柏原市片山町七二番地の二地上家屋番号五九番木造瓦葺二階建居宅床面積二一、五二平方米、二階三二、六二平方米の家屋に抵当権の設定、停止条件付賃貸借仮登記がなされ、物的担保が附加されている。

2、かりに右の更改が認められないとしても、被告は昭和四七年一〇月一〇日頃本件各手形金の支払に代えて長野保文振出の各金額同額の約束手形を亡吉時に交付したので、代物弁済により本件手形金債務は消滅した。

3、かりに前記1、2の抗弁が認められないとしても、本件手形は被告時保が亡吉時から借入れた貸金債務の支払のため振出したものであるが、被告が亡吉時から貸付を受けた金員は別紙借入金の計算書のとおり貸付の都度天引された金額を差引き現実に受取った金一、九二二、二七五円に限るというべきである。したがって、この一、九二二、二七五円を超える部分は原因関係を欠くので、被告に手形金の支払義務はない。

4、予備的に被告は昭和四八年一一月二〇日の第八回口頭弁論期日において亡吉時に対する次の反対債権をもって、本件手形金の一部とその対等額につき相殺の意思表示をする。

すなわち、亡吉時が昭和四七年一〇月一二日頃被告所有の普通乗用自動車(ニューコロナ新車、カーステレオ付)一台を寸借名下に騙取して返還しないことによる右自動車(時価七六一、〇〇〇円)、カーステレオ(時価二五、〇〇〇円)の時価相当の金七八六、〇〇〇円の亡吉時に対する損害賠償請求権。

三、原告ら(抗弁に対する答弁)

(一)  被告主張の抗弁事実1のうち、その主張のとおり貸金債権金二五〇万円につき長野りよ所有の家屋に抵当権設定登記、所有権移転請求仮登記、停止条件付賃借権仮登記を了したことは認めるが、その余は否認する。なお、これはその頃被告らの亡吉時に対する債務を長野りよが重畳的債務引受をなしたことによるものである。

(二)  同抗弁事実2は否認する。

(三)  同抗弁事実3のうち、本件各手形が被告時保の亡吉時に対する貸金債務支払のため振出されたことは認めるが、その余は否認する。なお、亡吉時は被告時保に対し前後一〇回に亘り計二五六万円の金員を貸付けており、被告ら主張の如き利息を天引したことはなく、毎回一万円程度の礼金を差引いたに過ぎない。

(四)  同抗弁事実4は否認する。

なお、被告ら主張の自動車は被告らが前記貸金債務の担保として亡吉時に預けたものである。

第三、証拠≪省略≫

理由

第一、請求原因事実

原告ら主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがない。

第二、更改の抗弁の判断

一、≪証拠省略≫によると、(一)被告時保は東商会という商号で貸おしぼり業を営んでいたがその営業資金として亡吉時から手形割引の形式で金員の貸付を受けていたが、本件各手形は当事者間に争いがないようにこの貸金債務支払のため振出されたものである。(二)その後被告時保は昭和四七年九月一三日頃不渡処分を受け苦境に立ったところ、右亡吉時から援助する旨の申入れを受け、その紹介で税理士から二〇〇万円を借り受けた。

しかし、当時被告時保は金四〇〇万円の融資を受ける約束の下に妻長野りよ所有の大阪府柏原市所在の居宅に抵当権を設定したのであるのに、残額二〇〇万円の融資は受けられなかった。(三)昭和四七年一〇月二三日頃本件約束手形金の支払を含めた被告時保の債務決済方法につき亡吉時その税理士村田、被告時保、同被告の支配人小松政義らが被告時保の経営する東商会方に会し、話合いの結果、原、被告間の債権債務を精算することになり、≪証拠省略≫のノート記載のとおり精算した。すなわち、満期到来後同日まで未払の手形小切手については同日までの利息金を加算し満期未到来の手形小切手に対しては同日から満期までの利息金を算出してこれを戻利息としてその分を減額し亡吉時が被告時保からその妻長野りよ名義の簡易生命保険契約の解約金により弁済を受けた一三六、一〇〇円も控除し、その差引き合計二、四五二、三三五円を金二五〇万円に切上げこの既存債務を目的として亡吉時が右長野りよを債務者とし同女に金銭を貸付ける契約をし、同女所有の柏原市片山町七二番地の二所在家屋番号五九番、木造瓦葺二階建床面積一階二一・五二平方米、二階三二・六二平方米抵当権設定登記停止条件付賃借権仮登記をなし、本件手形債務を含む既存債務はこの準消費貸借上の債務に切替える契約が亡吉時、被告時保、長野りよの代理人である同被告間に成立し、亡吉時は本件手形を含む被告らが振出ずみの新旧手形、新小切手帳一冊、長野保文の銀行届印章、普通乗用車(ニューコロナ、カーステレオ付)などを被告時保に返還する旨を約した。そこで、亡吉時の指示によりその自動車に追尾して、小松運転の自動車で被告時保らがその返還を求めるため走行したが、亡吉時は高速度で巧みに行方を暗ましたため返還を受けられず、その後も言を左右にして右手形等の返還をしないことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

二、前認定事実に照らすと本件手形債務は亡吉時、被告時保、長野りよ代理人同被告間において、前記抵当権付の債務者を長野りよに交替した金二五〇万円の準消費貸借上の債務に切替える契約をなしたものであって、このような手形債務から普通債務とくに担保権付で債務者の交替が伴うものに切替えた場合には民法五一三条、五一四条により更改契約が成立し、これにより本件手形債務は消滅したものというべきである(大判大二・一〇・二〇民録一九輯八三三頁参照)。

第三、結論

以上のとおりであるから、その余の判断をするまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないことが明らかであり失当としてこれを棄却することとし、これと符合しない本件各手形判決を民事訴訟法四五七条二項により取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春)

<以下省略>

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